ARKは2022年6月に、Zoom ($ZM) の株価が2026年には$1,500に到達すると予想したシミュレーションモデルを公開した。
コロナ全盛期には最高で$568に到達していた株価は、$110付近にまで大幅下落し、ステイホーム銘柄の代表格として見られていたZoomにとって最悪な市場センチメントとなっていた中でのキャシーらの発表は、恐ろしく強気でクレイジーなものだった。
あれから1年経った今、コロナは以前よりもさらに落ち着き、テック銘柄を含めた米国株式市場は勢いを取り戻してきている。しかし、Zoomの株価は当時よりもさらに下落し未だ$70付近をうろついている。果たして、Zoomは本当に2026年に$1,500に到達するのだろうか。少しずつ雲行きが怪しくなってきた。
今回は、当時ARKが公開したZoomの株価シミュレーションモデルのロジックを紐解き、そのロジックにどれだけ妥当性があるのかを考えていこうと思う。
それが破綻したロジックであると判明した時には、これまで歯を食いしばりながら株価の下落に耐えてきた私の愛しのZoom株もいよいよおさらばしなければいけなくなるので、それはどうか勘弁してほしい。健全なロジックであることを祈りながらも、今回は出来るだけ中立な立場で調査していくよう最大限努力する。
まずはじめに、1年前ARKはどういった予想をしていたのかを簡単に振り返っていく。2026年のZoomの株価に対するARKの予想は以下の通りだ。
なお期待値を計算した上で、25%の確率でブルケースかベアケースにブレるとされている。
改めて眺めてもかなり強気の数字だ。
2023年6月中旬である現在の株価をざっと$70とすると、期待値で約21倍、ベアケースでも約10倍、ブルケースに至っては約28倍となっている。
最低でもテンバガー保証という、グロース投資家が食い付かない訳がない予想である。
この株価シュミレーションモデルでは以下の4つの要素がZoomのビジネス上で特に重要なドライバーと定義され、予想株価に大きく影響してくる。
この中でも最も重要な要素が1つ目であり、ARKのシミュレーションモデルはここが今後数年間で伸び続けるとう大前提を元にロジックが組み立てられている。
この要素1つがARKの予想が外れるとZoomの合計ユーザー数もZoomの課金ユーザー数も併せて予想が外れていくような構造だ。そして、それらの予想が外れると当然、株価予想も大きく裏切られる結果になり、私もARKと共に奈落の底に落とされる結末を迎えてしまう。
では、ARKは在宅勤務をする世界のナレッジワーカーの数が今後どう変化していくと予想しているのだろうか。中身を覗いてみよう。
これがARKの見立てであり、賛否両論が分かれる最も大きなポイントである。そして、このシミュレーションモデルの妥当性はここに大きく依存している。ではARKの予想を具体的にみてみる。
ベアケースでもかなり強気な予想だ。ブルケースと比べてもその差は5%未満だ。これをみるとARKは、今後在宅勤務をするナレッジワーカーが増えるということについては議論の余地なく、確信めいていると考えていそうだ。
ARKはどういった考えを以てそう確信するに至っているのだろうか。
コロナ禍ではナレッジワーカーを抱える多くの企業がリモートワークを導入せざるを得ない環境となり、そこで働く多くの人々がリモートワークの良さを実感した。仕事をする上でリモートワークが結果的に良い生産性をもたらすのか、悪い生産性をもたらすのかは今も各所で議論されている。イーロン・マスクはリモートワーク反対派として知られている。
ただし、リモートワークまたは、ハイブリッドワークによって労働者のワークライフバランスが向上し、多くのナレッジワーカーがそれを求めていることは言うまでもないだろう。リモートワーク反対派の人々においてもそこは間違いないと考えているはずだ。
さて、世界を見渡しても労働者不足が明らかに深刻化している現在において、雇用者の都合のみでオフィス出社を強いることはできるのだろうか。答えはNOであるとARKは考えている。
ナレッジワーカーはより労働環境が良い場所を求めて職場を転々とするし、労働者不足の中に置いて雇用者はそれに併せて良い労働環境を作っていくよう努力しなければ雇用ができなくなってしまう。企業における人材不足の問題というのはいつの時代においても企業の死活問題となり得る。
GAFAMのような誰もが知る有名企業でそこで働くだけで自分の価値が向上するような企業であったり、そこに負けないほどの報酬を支払える企業であればオフィス出社縛りでも雇用はできるもしれないが、ほとんどの企業はそうではない。そしてそんなGAFAMでさえもハイブリッドワークを導入している状況下ではなおさら他の企業はハイブリッドワークを導入せざるを得なくなる。
ナレッジワーカーの働き方が今後どう変化していくかをリサーチしている会社がいくつかあるので今度はそれらのレポートを覗いてみる。
まずはARKのリサーチレポートでも参照されているGartner社のレポートからみてみよう。
Gartnerは、IT分野を中心とした調査・コンサルを行っている企業で、$IT のティッカーシンボルでニューヨーク証券取引所に上場もしているので一定の信頼性は担保されているソースと考えて良いだろう。
私がイメージしていたよりもずっと高い数字が2023年の数字として予想されていた。それもそのはず、日本だけ明らかにハイブリッドワークのトレンドが到来しておらず、米国やヨーロッパ、英国などの数字に比べて最大40%も低い浸透率となっている。
私自身は本業でハイブリッドワークで働いている身ではあるが、周りを見渡すとコロナが収束した途端に毎日出社に切り替えられた人たちが多い。みなさんの周りもおそらくそうだろう。
これを鑑みるに在宅勤務を取り入れるナレッジワーカーの数に関するARKの予想は、あくまで世界でみたときの話であり、特に日本は例外であるとしっかり認識したほうが良さそうだ
アメリカで世論調査やコンサルを行う企業であるGallup社のデータを見ても、我々が思っている以上に米国ではハイブリッドワークが既に浸透しているということが分かる。